健康コラム

ペストの記憶

2021年 3月 22日
「ロビンソン・クルーソー」の著者、ダニエル・デフォーは1665年、ペスト流行下のロンドンに留まり、「ペストの記憶」を著しています。それによると、市民約46万人の凡そ2割がこの病で亡くなりました。失業者も激増し、ロンドンは将に崩壊の危機でした。
ところがこの災禍でキリスト教の宗派間の対立が一時収まり、貧困に喘ぐ人々を助けるため、多額の寄付金が市長や各区長に寄せられました。慈善家は個々に多くの金銭的、人道的救援活動を行い、瀕死の都はようやくもちこたえたといいます。

日本でも、阪神淡路大震災や東日本大震災で多くの犠牲者が出て、大混乱に陥ったさ中、人々は互いに助け励まし合い、貧苦を分かち合うなどして難局を乗り越えようと行動しました。このように、地域に多くの犠牲者を出して悲劇に直面した社会では、人々の善意が高揚して大きな力となり、期せずして互いに助け合う「理想郷」が出現するといわれます。
ペストの記憶

米国の著作家、レベッカ・ソルニットは、大規模災害の後に一時的に発生する理想郷的社会を、「災害ユートピア」と呼ぶことを提唱しました。この理想郷は種族存亡の危機を回避しようとする自然の摂理、謂わば天与のレジリエンス(復元力)の現れと言えるかも知れません。目下のコロナ禍のさ中でも、医療従事にとどまらず、いたわりと思い遣りの心で果敢に行動する人たちが大勢います。このような人の善意と同胞愛が病痾を克服する絆となり、社会を支える原動力となることを信じたいと思います。