健康コラム

腸内細菌と血管の健康

2019年 12月 3日
立命館大学 スポーツ健康科学部 助教 内田 昌孝 先生

はじめに
 血管は、全身に血液を送る道路の役割を果たすことで、酸素や栄養素を血液に乗せ、体の隅々まで運んでいる重要な器官であり、血管の健康を保つことは、体全体の健康に繋がります。血管に問題があると血液がうまく流れなくなり、酸素や栄養素を他の臓器に供給できなくなります。血管の異常が心臓や脳で起こると、日本人の死因の約20%以上を占める心筋梗塞や脳梗塞などの疾患(心疾患や脳血管疾患)が引き起こされます。今回のコラムでは、この血管の健康と腸内細菌についてご紹介します。

血管の健康とは?

 皆さんは若いころに比べて、体が硬くなったと思うことはないですか。体の柔軟性は老化とともにだんだんと低下していきますが、体の柔軟性と同じように血管も柔軟性がなくなり、破れやすくなったり、詰まってしまいやすくなったりすることはご存知でしょうか。これを動脈硬化といいます。「動脈硬化」とは血管の壁が厚く肥厚してしまい、本来血管が持つ弾力性が失われて硬くなってしまったり、血管にコレステロールなどが蓄積して血液が通りにくくなってしまう症状の総称です。このように柔軟性があり、血液が通りやすい健康な血管がどうして硬く、血液が通りにくい不健康な血管になってしますのでしょうか。

腸内細菌と血管の健康

不健康な血管を作り出すのは免疫?

 不健康な血管を作り出す危険因子は、「高血圧」「高脂血症」「高血糖」「肥満」「喫煙」の5つといわれています。いわゆるメタボリックシンドロームの方や喫煙者がなりやすく、生活習慣に起因する場合がほとんどです。このような人は、LDLコレステロールや中性脂肪が血液中で増えており、この脂肪分が血管に蓄積していきます。血管は、一番内側の「内膜」、一番外側の「外膜」、その間にある「中膜」という3層構造になっており、内膜と中膜の間に脂肪分が蓄積していき動脈硬化が進行していきます。さらに血管の内側に脂肪がどんどん蓄積し、柔らかい“おかゆ状のこぶ”のような構造を作り、血管を狭めたり血栓ができたりします。このような状態を粥状動脈硬化といいます。驚くかもしれませんが、このような状態になる原因には、免疫細胞が関わっているのです。血管に悪い影響を与える高血圧や糖尿病、感染などが刺激になって内膜が傷つけられると、そこに免疫細胞が集まります。血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が多いとその免疫細胞がたくさん脂肪分を食べてしまい、傷ついた部分に脂肪を蓄えやすくなってしまいます。このように、危険因子の刺激によって内膜が傷つけられ、免疫細胞によってその部分の内側に脂肪がたまって厚くなり、“おかゆ”のような状態になり、血管が詰まったり硬くなったりしてしまうのが動脈硬化になる過程になります。

腸内細菌は心血管疾患の原因物質を作り出す

 心疾患患者や動脈硬化を呈する患者では、健常者と比べて、腸内細菌叢が大きく異なることが報告されています。では腸内細菌が何を行っているのか?<br />
腸内細菌は食物に含まれるコリンを代謝し、代謝産物(trimethylamine N-oxide: TMAO)を作り出し、これが心血管疾患を引き起こす原因となります。コリンは肉類や卵、豆類に多く含まれており、体にとって必要な栄養素になりますが、多量に摂りすぎると負の側面を見せ始めます。腸内細菌によってコリンから作られたTMAOは、免疫細胞に働きかけ、脂肪を取り込みやすくするといった性質を変化させてしまいます。つまり、腸内細菌の一部には我々の食べたものからTMAOを作り出し、免疫細胞を狂わせることによって血管を不健康にしてしまうのです。血管の健康を守る要は腸にあるといっても過言ではないでしょう。このため、肉類や卵、豆類は摂取する必要はありますが、極端に肉だけを食べる食習慣などは、血管にとって害になる可能性があるので、やはりバランスの良い食事を心がけることが重要だと考えられます。


慢性的な病気の予防には腸内環境の改善を

 以前と今回のコラムでは、腸内細菌叢とメタボリックシンドロームや動脈硬化の関係についてご紹介してきました。腸内に存在する細菌の種類やバランスが疾患の発症を左右する要因になることが分かって頂けたかと思います。特に生活習慣に起因する慢性的な疾患と関係していることから、日々の食生活や習慣を改善し、腸内の細菌や環境を改善していくことが健康の要になるんですね。