健康コラム

腸内細菌叢と健康

2019年 10月 31日
立命館大学 スポーツ健康科学部 助教 内田 昌孝 先生

はじめに
 以前のコラムで、私たちの隣人である腸内細菌と私たちの身体の間に深い関係があることをご紹介しました。今回は、腸内細菌叢と病気の関係についてご紹介します。病気といっても感染症やメタボリックシンドローム、ガン、心血管疾患(血管や心臓の病気)、アレルギー、高血圧、サルコペニア、精神疾患などと多岐に渡ります。今回のコラムでは、メタボリックシンドロームに注目してご紹介します。

メタボリックシンドロームとは?
メタボリックシンドローム(以下メタボと略称)は内蔵肥満に高血圧、高血糖(糖尿病)、脂質代謝異常が重なって起こってくる病態です。メタボの患者さんは、心臓病や動脈硬化、脳卒中といった様々な疾患になりやすいことが分かっています。
メタボの原因は腸内細菌?
腸内細菌叢と健康

万病の元ともいえるメタボの予防や改善に運動や栄養、休養が重要であることは、皆さんもよくご存知かと思いますが、それと同じくらいに重要なのが腸内環境(腸内細菌叢)になります。なぜそれほど重要なのかというと、腸内細菌叢が、肥満や糖尿病、脂質代謝異常の発症や悪化に関わっているからです。
肥満や糖尿病、脂質代謝異常を持つ患者さんは、腸内細菌叢も健康な人と全く異なる特徴を持つことや腸内細菌叢の多様性(種類の多さ)の低下が報告されています。興味深いことに、デブ菌や痩せ菌がいる可能性も示されています。健康な人の腸内細菌叢に比べて、肥満患者の腸内細菌叢は、Bacteroidetesが減少し、Firmicutesが増加することが分かっています。また、肥満者の腸内細菌をマウスに移植するとそのマウスも肥満になってしまうことから、肥満患者の腸内細菌叢が肥満の直接的な原因となることが分かっています。さらに、動物実験ですが、Akkermansia muciniphilaが肥満によって減少し、Akkermansia muciniphilaを与えると肥満や糖代謝異常が改善することも報告されています。ヨーロッパの糖尿病患者のHbA1cや空腹時血糖値のような糖尿病の指標が悪化した人の腸内ではL.gasseri種が増加していることやその悪化に関連していることが示されました。このように、腸内細菌叢の構成や多様性がメタボ発症に関わっていることが多くの研究で証明されています。

腸内細菌はどうやって人とコミュニケーションをとるのか?
腸内細菌はどのようにして人を健康にしたり、病気にしたりしているのか疑問に思う方もいると思います。その方法の一つは腸内細菌が、腸に存在するL細胞を刺激することで食欲を抑えるホルモンやインスリン分泌促進作用を持つホルモンを産生させ、代謝機能を正常に機能させているのです。加えて、腸内細菌は多くの分解酵素を持っており、ヒトが消化できない食物繊維やオリゴ糖を分解し、短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸)を作り出しますが、この短鎖脂肪酸はヒトの代謝を向上させたり、炎症を抑えたりすることでヒトの健康に貢献しています。この関係が崩れてしまうとメタボを発症してしまうわけです。
このように腸内細菌は多くの手段を使って人を健康にしたり、病気にしたりしています。これは一例でしかありませんが、次のコラムでは、メタボリックシンドローム以外の病気についてもお話ししたいと思います。